オオスズメバチ(大雀蜂、学名:Vespa mandarinia)は、ハチ目スズメバチ科スズメバチ亜科スズメバチ属の昆虫の一種。
オオスズメバチは、インドから東南アジア、東アジアにかけて広く分布する[1]。
体長は女王バチが40-55mm、働きバチが27-40mm、雄バチが 27-45mm[2]。頭部はオレンジ色、胸部は黒色、腹部は黄色と黒色の縞模様で、羽は茶色。雄バチは毒針(産卵管)を持たない。
以前は標準和名としてオオスズメバチのほか、単にスズメバチを用いることも多かった。
木の根元などの土中、樹洞などの閉鎖空間に巣を作る。巣は、枯れ木などから集めた繊維を唾液のタンパク質で和紙のように固めて六角形の管を作り、この管が多数集まった巣盤を数段連ねる。
日本に生息するハチ類の中で最も強力な毒を持ち、かつ攻撃性も高い非常に危険な種である。オオスズメバチ日本亜種の半数致死量(LD50)は4.1mg/kgである[3]。毒液中にはアルコールの一種からなる警報フェロモンが含まれており[4]、巣の危機を仲間に伝える役割も果たしている。 本種は毒針のほか、強力な大顎で相手を噛むことで捕食対象を攻撃する。時速約40kmで飛翔し、狩りをする時は1日につき約100kmもの距離を移動できる[5]。
夏季に幼虫に与えられる餌は幅広く、コガネムシやゴミムシなどの小、中型甲虫類、他種のハチ、カメムシなどの半翅目、ガやチョウなどの鱗翅目、あるいはスズメガやカミキリムシの幼虫など大型のイモムシが頻繁に捕食される。 これらの昆虫が減少するうえ、大量の雄蜂と新女王蜂を養育しなければならない秋口には本種の攻撃性が高まり、セイヨウミツバチやキイロスズメバチ、モンスズメバチ、ニホンミツバチなど、巨大なコロニーを形成する社会性の蜂の巣を襲撃して需要を満たす。襲撃は、スズメバチ類としては例外的に集団で行われる。巣の働き蜂を全滅あるいは逃走させた後には、殺した働き蜂も幼虫の餌とするが、大量の死骸は処理しきる前に腐敗が始まり餌に適さなくなるため、主に占領した巣の中で時間をかけて大量の生きた蛹や幼虫、筋肉に富む成虫の胸部などを噛み砕きペースト状にした後、肉団子状にして運び出す。
より大型の巣を作り、多数の働き蜂を擁するキイロスズメバチやモンスズメバチの巣を襲撃する場合、オオスズメバチ側にも大きな被害が出るケースが多いものの、巣の占領に成功すればその損害を補填できるだけの幼虫やさなぎ、成虫の死骸を収穫できる。しかし、チャイロスズメバチの巣を襲撃する場合には、チャイロスズメバチは他のスズメバチ類に比べて強靭な外骨格をもつため、大顎や毒針による攻撃が必ずしも有効に機能するわけではなく、撃退されることもある。
また、クヌギなどの樹液に集まり樹液を採取する。
本種の天敵にはキイロスズメバチやクロスズメバチ類と同様、ヒトのほかに哺乳類のクマや野鳥のハチクマなどが挙げられる。本種を捕食する昆虫にはオニヤンマやオオカマキリなどが挙げられるが、これらについては捕食した、もしくは捕食された双方の記録が存在する。なお、捕食関係ではないが、夏場の樹液に集まる際に小型の甲虫(カナブンやコクワガタなど)には強気で対応する一方、大型の甲虫(カブトムシや大型のクワガタムシなど)に対しては強力な顎と針をもつ本種でも抵抗できず、餌場を独占される場合が多い。特にカブトムシが全盛となる7-8月頃にこの風景はよく見受けられるため、この時期の本種はカブトムシなどが活動しない昼間や朝方を狙って樹液に来ることが多くなる[6]。また、大型甲虫以外にも本種を追い立てる昆虫に、オオムラサキがある。オオムラサキのオスの気性は激しく、樹液を争う際に羽を広げて本種を追い立てることが知られている。
本種の腹部に寄生する昆虫には、ネジレバネの一種があげられる。
日本産亜種であるニホンミツバチを含むトウヨウミツバチ (Apis cerana) の巣を襲撃した場合、集団攻撃前に撃退されなければ巣を占拠できる。集団攻撃前の撃退とは、オオスズメバチの働き蜂が単独で偵察している(集合フェロモンにより同じ巣の働き蜂を集結させる前の)段階で、ミツバチが集団で敵を押し包む行動によって作られる蜂球で蒸し殺されることをいう。蜂球の内部はオオスズメバチの致死温度(44-46℃)に近い46℃になり、かつ蜂球内の二酸化炭素濃度が約3%ほどまで上昇してオオスズメバチの致死温度を下げることがわかっている[7][8]。
セイヨウミツバチ (A. mellifera) は蜂球を作れないが、大群で相手の腹の周りを圧迫して呼吸を阻害し、約1時間かけて窒息死させる窒息スクラムという対抗手段を持っている[9][10]。しかし、これはモンスズメバチ以下の敵しか想定していないため、オオスズメバチに対抗する方法にはならず、養蜂家による庇護がなければ高確率での全滅を余儀なくされる(数十匹ほどの本種が、4万匹のセイヨウミツバチを2時間ほどで殲滅できるという説がある)[11]。このことが、飼育群からの分蜂による野生化が毎年あちこちで発生しているにもかかわらず、セイヨウミツバチが日本で勢力拡大するのを防ぐ要因になっている。実際、オオスズメバチの生息していない小笠原諸島ではセイヨウミツバチの野生化群が増加し、在来のハナバチ類を圧迫して減少させていることが確認されており、これらのハナバチ類と共進化して受粉を依存している固有植物への悪影響が懸念されている。
熊本県球磨地方[12]や宮崎県の高千穂のように、地方によっては幼虫やさなぎ、成虫を珍味として食す習慣がある。成虫の毒針を取り除き、蜂蜜や焼酎につけ込んだものも見られる。 また、本種そのものを食すわけではないが、本種の幼虫が成虫に与える餌の成分を参考にして作られた栄養ドリンクやサプリメントが、日本をはじめとするアジアやヨーロッパで販売されている。