

- アカアシセジロクマバチ X. albinotum
- アマミクマバチ X. amamensis
- クマバチ X. appendiculata circumvolans
- オキナワクマバチ X. flavifrons
- オガサワラクマバチ X. ogasawarensis
- ソノーラクマバチ X. sonorina
クマバチ(熊蜂、学名: Xylocopa)は、ミツバチ科クマバチ属に属する昆虫の総称。概して大型のハナバチであり、これまで、約500種が記載されている。方言によっては、連濁に伴う入り渡り鼻音を挟んでクマンバチとも呼ばれる。
北海道から九州にかけて広く分布するクマバチ(別名キムネクマバチ、Xylocopa appendiculata circumvolans (Smith, 1873)) を指すことが多い。
形態[編集]
体長は2cmを超え、ずんぐりした体形で、胸部には細く細かい毛が多い。全身が黒く、翅(昆虫の羽のこと)も黒い中、胸部の毛は黄色いのでよく目立つ。体の大きさの割には小さめな翅を持つ。翅はかすかに黒い。
メスは顔全体が黒く、複眼は切れ長。額は広く、顎も大きいため、全体に頭が大きい印象。それに対し、オスは複眼が丸く大き目で、やや狭い額に黄白色の毛が密生し、全体に小顔な印象。
生態[編集]
本州のクマバチ(キムネクマバチ)は、概ね山桜類カスミザクラなどが咲き終わる晩春頃に出現し、街中でもフジやニセアカシアの花などに活発に訪花するのがよく見られる。成虫の活動期間は晩春から中秋頃まで。寿命は1年程度と推定され、その年生まれの新成虫は越冬して翌年に繁殖活動に参加すると推定されている。
「ブ~ン」という大きな音を立てて、安定した飛行をする。
食性は、他のハナバチ同様、花蜜・花粉食。初夏から秋にかけて、さまざまな花を訪れる。ただし、頑丈な頸と太い口吻を生かして、花の根元に穴を開けて蜜だけを得る盗蜜もよく行う。この頑丈な頸は、後述の穿孔営巣性により発達したものと考えられ、このハチの形態的特徴のひとつである。
フジの仲間の花はクマバチに特に好まれるが、とても固い構造で蜜を守っており、クマバチの力でこじあけないと花が正面から開かない。また、クマバチが花にとまって蜜を飲もうとすると、初めて固い花弁が開いて隠れていた花柱と葯が裸出し、クマバチの胸部や腹部に接する。このことから、フジはクマバチを花粉媒介のパートナーとして特に選んでいると考えられる。こうした、クマバチに特に花粉媒介を委ねている花はクマバチ媒花と呼ばれ、トケイソウ科のパッションフルーツなどの熱帯果樹や、マメ科のフジやユクノキなどに見られる[2]。
春先の山道や林道では、オスが交尾のために縄張り内の比較的低空をホバリングし、近づくメスを待つ様子が多数見られる。また、オスはメスに限らず飛翔中の他の昆虫や鳥類等、近づくもの全てを追跡し、メスであるか否かを確認する習性がある。
初夏、メスが太い枯れ枝や木造家屋の垂木などに細長い巣穴を掘り(穿孔営巣性)、中に蜜と花粉を集める。蜜と花粉の団子を幼虫1匹分ずつまるめて産卵し、間仕切りをするため、一つの巣穴に、一列に複数の個室が並ぶ(英名の carpenter bee(大工蜂)は、この一連の巣づくりの様子に由来)。その夏のうちに羽化する子供はまだ性的に未成熟な亜成虫と呼ばれ、しばらく巣に残って親から花粉などを貰う。またこのとき、亜成虫が巣の入り口に陣取って天敵の侵入が若干だが防がれる。こうした、成虫の姿での母子の同居は、通常の単独性のハナバチには見られない行動であり、亜社会性と呼ばれる。これはまたミツバチやマルハナバチなどにみられる高度な社会性(真社会性)につながる社会性への中間段階を示すものとも考えられる。また、巣の周囲での他のハチへの激しい排斥行動は行わないため、同じ枯れ木に複数が集まって営巣することもある。
体が大きく、羽音の印象が強烈なために、獰猛な種類として扱われることが多いが、性質はきわめて温厚である。ひたすら花を求めて飛び回り、人間にはほとんど関心を示さない。オスは比較的行動的であるが、針が無いため刺すことはない。毒針を持つのはメスのみであり、メスは巣があることを知らずに巣に近づいたり、個体を脅かしたりすると刺すことがあるが、たとえ刺されても重症に至ることは少ない(アナフィラキシーショックは別)。
下位分類と分布[編集]
- クマバチ(キムネクマバチ) Xylocopa appendiculata circumvolans - 北海道南部から屋久島にかけて。
- アマミクマバチ Xylocopa amamensis - 口永良部島から徳之島にかけて。
- オキナワクマバチ Xylocopa flavifrons - 沖永良部島から沖縄島にかけて。
- アカアシセジロクマバチ Xylocopa albinotum - 多良間島から与那国島にかけて。
- オガサワラクマバチ Xylocopa ogasawarensis - 小笠原諸島の父島列島、母島列島。
- タイワンタケクマバチ Xylocopa tranquebarorum - 2007年に東海地方において侵入が見つかった。
- Xylocopa violacea
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人間との関わり[編集]
大型の体とそれに見合わない小さな翅から、かつてはマルハナバチとともに「航空力学的に、飛べるはずのない形なのに飛べている」とされ、長年その飛行方法は大きな謎であった。「彼らは、飛べると信じているから飛べるのだ」という説が大真面目に論じられていたほどである。現在はレイノルズ数(空気の粘度)を計算に入れることで飛行法は証明されているが、ここからクマバチは「不可能を可能にする」象徴とされ、しばしば会社やスポーツチームのシンボルマークとして使われる。
リムスキー=コルサコフの楽曲『The flight of bumble bee』は邦題『くまんばちの飛行』として知られるが、bumble bee とはクマバチではなくマルハナバチの英名である。
クマンバチ[編集]
「クマ」は哺乳類の熊になぞらえ、大きいもの、強いものを修飾する語として用いられる。このため、日本各地の方言において「クマンバチ」という地域が多数あるが、クマンバチという語の指す対象は必ずしもクマバチだけではない場合(クマバチ[3]・スズメバチ[3][4]・マルハナバチ・ウシアブほか)があり、多様な含みを持つ語である。クマバチとクマンバチでは別のハチを指す場合もある[4]。「ン」は熊と蜂の橋渡しをする音便化用法であり、方言としても一般的な形である。
スズメバチとの誤解[編集]
本種は大型であるために、しばしば危険なハチだと解されることがあり、スズメバチとの混同がさらなる誤解を招いている。スズメバチのことを一名として「クマンバチ(熊蜂)」と呼ぶことがあり[3][4]、これが誤解の原因のひとつと考えられる。花粉を集めるクマバチが全身を軟らかい毛で覆われているのに対して、虫を狩るスズメバチ類はほとんど無毛か粗い毛が生えるのみであり、体色も大型スズメバチの黄色と黒の縞とは全く異なるため、外見上で取り違えることはまずない。
ハチ類の特徴的な「ブーン」という羽音は、我々にとって「刺すハチ」を想像する危険音として記憶しやすく、特にスズメバチの羽音とクマバチの羽音は良く似た低音であるため、同様に危険なハチとして扱われやすい。クマバチは危険音を他のハチ類と共有することで、哺乳類や鳥類に捕食されたり巣を狙われたりするリスクを減らしている、という説もある[要出典]。
かつて、児童文学作品の『みつばちマーヤの冒険』において、蜜蜂の国を攻撃するクマンバチの絵がクマバチになっていたものがあったり、『昆虫物語 みなしごハッチ』のエピソード(第32話)で略奪を尽くす集団・熊王らがクマバチであった。少なくとも日本において、ミツバチのような社会性の蜂の巣を集団で襲撃するのは肉食性のスズメバチ(特にオオスズメバチ)であり、花粉や蜜のみ食べるクマバチにはそのような習性はない。この様に、本種が凶暴で攻撃的な種であるとの誤解が多分に広まってしまっており、修正はなかなか困難な様子である。
脚注[編集]
[ヘルプ]参考文献[編集]
- 福田晴夫ほか 『昆虫の図鑑 採集と標本の作り方 : 野山の宝石たち』 南方新社、ISBN 978-4-86124-168-0。